Galileo Galileiの2ndアルバム『PORTAL』は、彼らにとってただの2ndアルバムではない。前作『パレード』と今作『PORTAL』との1年弱の間に、彼らは生活の環境を一変させ、音楽制作の環境を一変させ(その必然として新しいメンバーも加入して)、何よりも音楽そのものを一変させた。それは、リスナーにとっては1年前には想像もしていなかった変化かもしれないが、メンバー自身にとってはそうではない。ずっと頭の中でイメージしていたGalileo Galileiの音楽の理想像に、自分たちの力だけでようやく到達することのできた作品、それがこの『PORTAL』という作品だ。考えてもみてほしい。2010年にメジャーデビューした時点で彼らは16歳から19歳。「スタート地点に立つのが早すぎた」と言うと過去を否定することになってしまうが、そうではない。他の「若手」と言われる多くのバンドと比べてもいち早く世に出て、そこで経験してきたことをすべて糧にして、ここにもう一度、自分たちだけの手で新しいスタートラインを引いたのだ。『PORTAL』は直訳すると「入り口」。言うまでもなく彼らはまだ十分すぎるほど若く、そして、音楽の深淵な世界の「入り口」に立ったばかりだ。
「今のGalileoって、入り口に立って新しい扉を開けようとして、もがきながら闘ってる感じなんですね。その入り口の扉っていうのは、誰でも簡単に入れるようなものじゃなくて。特に日本で活動しているバンドにとっては、とても大きくて重い扉で、どんなに力を入れても開かない扉なんだけど、それをずっとガチャガチャやってるっていう」(尾崎雄貴)
「これまでリスナーとしての自分と、プレイヤーとしての自分がちょっと離れているように感じることがあったんですけど、今作でようやくそれが一致したっていう感覚があるんです」(尾崎和樹)
そんな発言から、Galileo Galileiの、最近の若いバンドには珍しい洋楽志向を読み取る人もいるかもしれない。今作『PORTAL』のジャケット写真のイメージは、アメリカの田舎の行ったことのない街がモチーフになっていて、歌詞の世界もすべて、その一つの街の中での人物や出来事を、尾崎雄貴が空想の中で作り上げていったものだという。また、今作『PORTAL』には2曲の印象的なインスト曲が収められているが、そのうちの一つ、「Blue River Side Alone」からは、そんな見たことがないはずの架空の街の景色が目の前に広がっていく。でも、彼らは海外のロックに無邪気に憧れているわけでもなく、ましてや海外の街に住みたいと思っているわけでもないだろう。今作『PORTAL』に収められた楽曲で描かれている「確かに言われてみれば日本じゃないんだけど、どこか日本っぽい」情景と、楽曲そのものが持つ「これまでの日本のロックにはなかったけど、どこか懐かしい」感覚は、今作で彼らが到達したGalileo Galileiだけの特別な場所だ。
「1stアルバムまでの曲は、別に自分たちじゃなくても作れた曲かもしれないなって思うんです。それで、『自分たちって一体何なんだろう? Galileo Galileiって一体何なんだろう?』ってことをメンバー同士で話し合ったりして。だから今作は絶対にGalileo Galileiにしか作れない作品にしようって気迫でやったし、実際にそういう作品になったかなって。それは、オリジナリティのあるものを作ろうとかそういうことじゃなくて、自分たちの向かってる方向に、誰もいないなって思ったんですね。誰も開こうとしてない扉を開こうとして、その扉のドアノブに触ることができたかなって」(尾崎雄貴)
「ここではないどこか」を希求し続けること、それはロックという音楽が持つ永遠の命題だ。でも、今作『PORTAL』でGalileo Galileiは、「ここではないどこか」を希求するだけでなく、その「どこか」に色と匂いと手に触れることができるような触覚まで与えて、それをリスナーに音楽として鮮やかに提示している。自分たちで最終的なミックスまで手がけた独特の浮遊感があるサウンドと、彼らの持ち味である清冽なメロディは、海外のシーンの最前線にいるロックやエレクトロニカを確実に通過したものでありながら、どこまでも優しく柔らかくリスナーを包み込んでいく。先鋭的なサウンドを先鋭的なまま独りよがりに鳴らす、あるいは、四つ打ちのビートを導入することでダンスミュージックの機能性を武器にする。そんな日本において過去に他のバンドがとってきたようなアプローチを、意識的にせよ無意識にせよ、彼らは絶妙なバランス感覚で回避している。Galileo Galileiはポップの外側からこの国の音楽シーンに刺激を与えて変革をうながすバンドではなく、あくまでもポップのど真ん中に立って、その内側から静かな革命を成し遂げようとしているバンドなのだ。日本のロック・バンドの多くが足をからめとられている「自意識との葛藤」の欠片も感じさせない、まるで良質な青春映画のワンシーンを切り取ったような歌の世界。楽曲の水面下で目まぐるしく変化し続ける複雑なリズムやコードを感じさせずに、歌がスッと耳に入ってくる音のバランスと伸びやかなメロディ。彼らの音楽に注意深く耳を傾ければ、ロックやポップのフォーマットの中にも、こんなにも音楽的に自由な空間がまだ残されてことに気づかされるだろう。
Galileo Galileiは今作『PORTAL』で、日本の音楽シーンから地理的にも、そしてそれ以上に精神的にも遠く離れた場所で、自分たちだけの理想郷を作り上げた。そしてその理想郷への扉は、すべてのリスナーに開かれている。